月刊現代1
アーレフ代表の野田成人です。06年9月に教祖・麻原彰晃こと 松本智津夫元代表の死刑は確定しましたが、教祖を信じる信者はいまもアーレフで活動を続けています。中でも「教祖は絶対!」と主張する原理主義的な信者(以下、A派)と、教祖との決別を唱える上祐史浩・前代表を取り巻く信者(以下、M派)が対立した末、M派が集団脱会して新団体「ひかりの輪」を創設し、またまた世間をお騒がせしたのが06~07年にかけての状況でした。
マスコミ等で「中間派」と位置付けらた私はこの間、A派とM派の争いの狭間で苦悩しましたが、教団が抱える問題の本質をはっきり認識できたと思います。これまで薄々感じつつ、勇気を持って対峙できなかった問題でした。以下、反省を込めて教団の現状と問題点を指摘したいと思います。
オウム真理教がアーレフという団体に変わったのは00年です。上祐氏らのM派が集団脱会したのは07年3月。上祐氏は一連の凶悪事件の謝罪や反省をしっかりやろうという「社会融和路線」を進めてきましたが、それが「グル麻原」を否定する内容につながっているため、教祖の妻・知子さんや三女(教団名・アーチャリー)ら松本家の逆鱗に触れたのが分裂の原因でした。
上祐氏らが立ち上げた新団体は、かなり真剣に事件を反省してやり直そうとしています。世間からすれば、事件当時にウソを吐き続けた「ああ言えば上祐」ですから、すぐには信じられないかもしれませんが、少なくとも上祐氏個人は「グル麻原」を完全否定し、切り捨てる方針のようです。
一方、反上祐のA派は逆です。いわゆる麻原原理主義に回帰し、深い意味での事件への反省はありません。事件を反省すれば「グル崇拝」を正当化できなくなってしまいますから。ただし、再び凶悪事件を起こすことはないと断言できます。資金的にも、人材的にも、そんなことができる状態じゃありません。「グル絶対」と内輪では訴えるものの、外には自己主張ひとつできない内弁慶な集団なんです。
こうした中、私の立場は微妙ですが、志向性は上祐氏の路線に近いとお考え下さい。ただ、幹部として信者を指示してきた私が教団を無責任に投げ出すわけにもいきません。上祐氏が抜ければ教団内のステージからも私が一番上で、団体規約上は私が代表なのですが、荒木浩・広報部長をはじめとするA派幹部は私の代表権を認めていません。したがって私は教団内で“窓際”に追いやられ、サマナ(出家信者)からも結構冷たい対応をされています。
A派はいま、荒木氏ら一部の連中が知子さんや三女らの意向を受けながら運営しています。おかしいと思っても松本家には逆らえません。それが教団内の秩序なのです。反旗を翻した上祐氏は「魔境」「悪魔」扱いされ、上祐氏が抜けたいまは私が追いやられているわけです。慕ってくれていた人たちも豹変しました。カルト宗教の怖いところです。こういう事態になって身に浸みて分かりました。
もちろん、松本死刑囚は獄中にあり、もはや廃人同然ですから実質的には関係しておりません。しかし、その権威を掲げた松本家が教団を陰から支配している。まずは、そんな教団の実態を明らかにします。
03年6月15日、私は松本家の三女に呼び出されました。3年半ぶりに会う三女はかなり大柄になっており、身長165cmの私と遜色ないほどでした。ちょっと清楚な女子大生風の服装に身を包んではいますが、信者には常に高圧的です。
「マイトレーヤ正大師(上祐氏の宗教名)のやっていることがおかしいの。彼の言うことを聞かないで、陰で私に協力して」
要は上祐路線の批判でした。麻原をないがしろにして上祐氏が教祖になろうとしている――教祖であり、父でもある尊師の否定は想像以上に苦痛なのでしょう。しかし私には上祐路線を覆すのは無謀に思えました。私自身、99年まで教団運営に関わり、「グルイズム」を前面に出して社会と摩擦を強めてしまった経験があります。ためらう私に三女はこう言い放ちました。
「あんた“重い”わねぇ~。男性の正悟師はやっぱりカルマ(業)が“重い”のかしら。村岡(達子)正悟師なんてすぐハッと気が付いたわよ。目が覚めましたって」
絶対服従。イエスマンになれ。それが「帰依」なのです。
かつて教団内の上下関係は、すべて教祖が決めていました。自分の子供は皇子と呼ばせ、すべての出家者の上のステージに置く。2番手が上祐氏らの正大師、3番手が私たち正悟師と続くわけですが、どんなに頑張っても血筋に勝てない。上には唯々諾々と従う。それが帰依の証なのです。
「でも具体的にどうすればいいんでしょうか?」
「私が影で指示するから、それに従って。でも指示を私が出しているっていうのは秘密よ」
「はぁ」
「いい? 従える?」
教団運営ってそんな簡単やない!、スパイごっこじゃないんやぞ!! そう思っても正面切って言えないのは情けない限りですが、ステージが一つでも違えば王様と奴隷です。頭を下げるしかないのです。
「ちゃんとアーチャリー正大師(三女の宗教名)が責任持ってくれるんでしょうね?」
「うん、私が責任持つから」
「分かりました……」
私が了承したためか、険しかった三女の顔が和み、少しだけ世間話に花が咲きました。タレントの誰が好きかという話にもなりました。
「モーニング娘。の石川梨華とか可愛いですね」
「あー、あの子、たしかに可愛いね」
ちなみに三女の名は「リカ」。私は思わずこんなことを考えていました。
〈石川梨華は可愛いけど、同じリカでも月とスッポン。雲泥の差だなぁ、トホホ…〉
そんな三女に再び呼ばれたのは、それから1週間後。今度は知子さんと次女も一緒です。一連のオウム事件のうち、薬剤師だった信者の落田耕太郎さんリンチ殺人事件で逮捕・起訴された知子さんは、減刑を狙って公判で教祖と教団を批判し、今後は教団と関わらないとの立場を取っていました。00年に住居侵入事件を起こして逮捕された次女と三女も保護観察処分となっていました。つまり3人とも表立って教団に関われないのですが、知子さんはこうまくしたてました。
「尊師の教えをきちんと守るなら上祐体制に全面協力するって言ってあげたのよ。それなのに裏切った。尊師を外して自分が教祖になろうとしている。許せない!」
教団内で正大師に次ぐ地位である正悟師の村岡達子、杉浦茂・実兄弟、二ノ宮耕一の各氏は既に懐柔されていました。武闘派として知られる二ノ宮氏は反上祐の急先鋒になりましたが、1ヵ月ほど前の上祐氏の説法会ではこう話していたのです。
「こんなに素晴らしい菩薩の心を持った魂はない」
現金なヤツです。しかし、権力の腰巾着はどこでもいるし、私も表立って反抗できるわけではありません。そんな私に知子さんが怒気を交えてこう続けました。
「彼(上祐氏)はね、尊師の説法集を骨抜きになるよう編集しているの。『尊師は最終解脱者である』という記述から『最終』を取って『解脱者』にしようとしたのよ!」
三女と次女も揃って声を上げます。
「とんでもないことだよねぇ!」
でも私はこう思ってしまうのです。
〈解脱者と最終解脱者の違い? そんなの牛丼の特盛りと大盛りの違いくらいじゃないの?〉
ここで私も上祐批判すれば最高の帰依なのでしょうが、それでは人間として最低です。ここはしおらしい顔をするくらいしかできません。
「はぁ。そうですか…」
気のない返事に教祖一家はややご不満のようでした。
しかし、こんな“秘密ごっこ”は長く続きません。確か03年6月26日に開かれた松本家3人と正悟師5人による「秘密会議」でのこと。全員の外出を不審に思った上祐氏が正悟師に次々電話してきたのです。三女は「シラを切って」と言いますが、私は思わず反論しました。
「こんなことやっていても絶対バレます。教団運営の責任を取るなら、いま電話して、ちゃんとマイトレーヤ正大師と話してください。お願いします」
他の正悟師は声を上げませんでしたが、無言で私を後押ししているようにも受け取れました。それを感じたのか、三女は渋々席を立ち、1時間ほど上祐氏と電話してこう告げました。
「これからマイトレーヤ正大師とここにいる全員で話をすることになったから。彼には修行に入ってもらうことにする。みんなでそう言ってね」
教団内で「修行に入る」とは、運営の現場に関わらせない、という意味です。逆らう者は帰依が足りない。帰依が足りねば修行するしかない。これが教団のやり方です。修行=監禁だった昔と比べりゃ随分マシですが。
上祐氏も交えた会議は教団のマイクロバスで行うことになりました。世田谷の砧公園にバスを止め、会議が始まったのは日付が変わった27日。奇しくも松本サリン事件から9年目の日です。知子さんが上祐氏を攻撃しました。
「マイトレーヤ正大師はグルへの帰依がなくなっている。もっと修行して帰依を培わなきゃダメ」
上祐氏も負けません。
「ヤソーダラー正大師(知子さんの宗教名)だって『尊師はあの時、魔境だった』って言ったじゃないですか」
「お母さん、そんな事言ったの!」
三女も参戦します。
「ちょ、調子が悪いとか、そんな風に言っただけよ」
何とも歯切れが悪いご回答。しかし、松本家の威光を背に二ノ宮正悟師がここぞとばかり上祐氏を攻撃し、応酬になりました。
二ノ宮「事件を疑問に思うなんて帰依が足りないんです」
上祐「じゃあ、あなたはどれくらい帰依があるんですか」
二ノ宮「私はありますよ」
上祐「どういう風にあるんですか」
二ノ宮「……言葉に言えないくらいの帰依があります」
すると三女がこう言い放ちました。
「上の人の言うこと聞くのが帰依でしょ。皇子はどのサマナよりもステージが上だよね。私の方が上だよね」
こんなバカバカしい話で2時間くらいすったもんだしたのですが、結局、上祐氏は修行に入ることになりました。松本家による裏支配の始まりです。
ところが上祐氏が修行入りして間もなく、松本家を囲む御前会議直前に二ノ宮正悟師がぶちまけたのです。
「責任を持つって言うから協力したのに、陰に隠れて全然責任取らないじゃん!」
松本家の指示でやったことも、一般信者から不満が出ると松本家は知らんぷり。そんな状況に不満を募らせたようでした。しかし、二ノ宮正悟師も知子さんや三女を前にした会議では黙ったままなのです。仕方なく私が問題点を切り出しても、三女は「そんなこと言ったって今の私たちの状況じゃ表に出られないよね! 仕方ないよね!!」と一喝します。結局、二ノ宮正悟師も04年頃には松本家との接触を避けるようになり、杉浦茂正悟師も同様の態度を取り始めました。その結果、もっぱら私が松本家と正悟師の調整役を担わされることになったのです。
私も葛藤はありましたが、松本家の関与を信者に知らせないウソつき体制から生じる問題を知子さんや三女に機会あるごとぶつけました。しかし、松本家は耳を傾けず、逆らえば私の頭越しに現場レベルに直接指示を出すのです。知子さんに言い含められたサマナは私の足を陰湿に引っ張り、ほとほと嫌気がさすようになりました。
実務的な話に介入するのはほとんど知子さんでしたが、たまに三女も口出ししてきました。
「あんた一体何やってんのよ!」
「は?」
「あなた権力にとらわれているのよ。いい加減にしなさいよ」
「な、何のことでしょうか?」
いきなり電話をかけてきて、理由も言わず怒鳴ることはしばしばでした。しかし私などはまだマシで、三女から「あなた、そんなんじゃ無間地獄行きだね」と宣告されたサマナもいたようです。教団で言う無間地獄とは地獄の中でも最悪の地獄。奈落の底に突き落とされる恐怖なのです。そんな三女が04年4月に和光大学から入学拒否された際、こう訴えたことを記憶している方も多いでしょう。
「カルト教団教祖の娘というだけで入学拒否するのは人権侵害。もう教団とは関係ない」
一見もっともな主張ですが、私は心の中でこうツッコミました。
〈おいおい、お前が一番教団に影響力があるじゃないか!!〉
三女がマスコミや集会で「精神を病んだ父に適切な治療を」と訴えたこともありました。麻原元代表が獄中で精神を病んだ状態なのは事実でしたし、世間にとって極悪人でも三女にとっては唯一の父です。何とか救いたい気持ちは分かりますが、ならば信者に「無間地獄宣告」などしないで欲しい。それとも、これだけ内情を暴露した私は無間地獄行きでしょうか。
コメント
一日早いようですが、掲載乙でつ。
もっと早く
痛快!
いやいや、立派に100万カルパのヴァジラ地獄決定ですわ。(笑)
オウム内部だけの話として考えれば、明らかにサマヤ戒違反でしょ。
結局、荒木さんたちが代表権を握るようになったのも、
VT正悟師含め、正悟師連がヤソーダラー正大師や皇子方からすると
全く使い物にならん奴ら、と映ったからですな。
管理人のみ閲覧できます
↑
潮時だった
なんていうか、下々のエゴを感じることもあった。上をこき使って搾り取れるだけ搾ってるような。
今回のA派体制も、そんなに変わるところはない。下々のエゴの反映って面はやっぱりある。上についていくだけで、自分たちの小さな安穏が約束されるとか。
宗教の世界ではそれが普通…としても、それでは道は開けない。初期のキリスト教団はローマ帝国という逃げ道があったけど、この教団にはそんな逃げ道は用意されてないし。
貴重な内部告発
麻原家の人たちの考え方がよく分かりますねえ。
とても、仏教修行を看板に掲げている団体の一番上に立つ人の言葉とは思えない。
これでは離れていく人の気持ちも分かる気がします。
極真空手の
もう一つ、オウムの分裂とダブルのが、田中角栄ですね。ロッキード事件で引退した後も、院政を敷いて背後から政界を操っていたのが、腹心の部下である竹下登が田中に反旗を翻して経世会を作った後、脳梗塞で倒れて廃人同様となってしまった経緯がありました。田中角栄は奥さんが早くから亡くなったので、娘の真紀子が、田中角栄のファーストレディとして活躍していました。田中の行くところ、脇に連れ添っていました。
オウムも夫人と麻原死刑囚の間に軋轢があり、3女が実質的なファーストレディのような感じでしたね。
麻原死刑囚も田中角栄も、独裁政権の末路はこうなる、というオカルト秘密政権のプロパガンダに利用されたケースだと思います。
月間現代2を期待します。
ところで、ステージとは絶対存在すると思うのですが、
そのステージを客観的に測定する方法はないのでしょうか?
血圧とか体脂肪率のように、
客観的に測定できれば便利なのだが…。
私は松本家の言うことにも共感できるし、
上祐さんにも共感できるし、
VT正悟師にも共感できるし、
元芝にも共感できるし、
パモ師にも共感できるし、
結局、訳が分からない。
だからとにかく修行して、
ステージを上げるように努めています。
客観的に
最低ラインだと思います。
ステージ
全く修行していない普通の人でも、
その人のステージがあるわけですよね。
だから、身長とか体重のように、
すべての人に対して測定できるステージの判定方法があれば、
便利であるという意味です。
(敢えてマジレス)
現代の科学技術
しいて言えば、脳波の測定ぐらいじゃないですか。
後は、呼吸停止時間でしょうか。
嗚呼。