失踪後2
「野田さん、北海道でいい仕事を見つけたんですよ。」
お金の管理ができない鈴木氏がこのように連絡して来たのは、酷暑の兆しが見え始めた6月初旬。埼玉県では5日が支給日だが、この連絡があったのは6月8日。以下の会話部分は、女房が対応した内容も含めたやりとり概要の再現。
「いきなり北海道?う~ん、どうかなぁ~、だって前の名古屋の話もダメだったわけでしょ?」
この話の前に、名古屋で仕事が決まったという話があった。しかし結局その話は流れたのである。
鈴木「そうですけど、今度の北海道の話は、農業の仕事で、僕前から農業やりたかったんですよ。だから今度は大丈夫です。」
小生「……でもね、前の名古屋の話も流れたし、その北海道の仕事がどうなるかなんて、実際に行ってみてやってみないと分からないじゃん。」
鈴木「いや、今度は自分のやりたい仕事だから大丈夫だと思います。」
小生「……」
鈴木「それでちょっとご相談なんですが…」
小生「!?」
鈴木「北海道に行くまでの旅費と、向うに行ってからしばらくの生活費で52000円程貸してもらえないでしょうか?」
小生「……あのぉ~、5日に保護費もらったばかりだけど、それはどうしたの?」
鈴木「……もうないんです。」
小生「何に使ったの?」
鈴木「いや、ちょっと増やそうと思って…」
小生「パチンコ?」
鈴木「……ハイ」
小生「……とにかく5万は無理、貸せない。」
貸金を断って電話を切った。別に北海道に行かなくても、仕事は首都圏で探せるはずである。尤も当面の生活費をどうするかという問題は残ったが、北海道の就職問題がどうなるのか、様子を見ていた。するとまた連絡が来た。
鈴木「北海道までの飛行機代は、何とか向うの会社が出してくれることになりました。」
小生「あ、そうなんだ。」
(止めといた方がいいのに…)
会社にも当人にもそのような想いが湧く。
鈴木「ただ羽田まで行く電車代がないので、それだけ貸してもらえませんか?」
小生「あの~、まだこちらに返済してない借金残ってるの、分かってる?」
鈴木「ええ、そうですけど、その分は布団と炊飯器を置いていくので、その分と相殺ということでお願いできませんか?」
炊飯器と布団は、こちらから提供したものを彼が買い取っている。勿論その費用は、毎月の保護費以外に「家具什器代」として追加で支給される保護費である。確かにこちらは残していった炊飯器と布団を、後から来た人に再度提供できることになる。これまで200人以上が住居を退去したが、そのような買取要求をしてきたのは、彼が初めて。
小生「……う~ん、じゃあそれは買取でいいよ。羽田まではいくらかかるの?」
鈴木「1500円もあれば…」
小生「分かった。」
かくして羽田までの交通費を振り込んだのが6月日。ちなみにこの時点で鈴木氏の貸金残債は9500円。布団炊飯器の売却価格ほぼ満額に近い異例の買取である。
航空券代も就職先に負担してもらい無事北海道に渡った彼だが、前回記事冒頭に書いた通り、程なく逆戻りすることになる。この連絡があったのが6月21日。
鈴木「野田さん、すいません、今青森にいるんですが、そっちまで帰る交通費を振り込んでもらえませんか?」
(はああぁぁぁぁぁ=3=3=3=3=3=3)
(つづく)
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