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Aさんは、千葉の施設を出て上野公園でホームレス生活を送っていた。Aさんが炊き出しに並んでいたある日、たまたま小生も上野公園に来ていた。大家業学校一期生(と言っても二人だけだが)の実習であった。
Aさんは、しゃべる言葉がよく聞き取れない。脳梗塞か何かでやられたらしい。このままだとまた脳梗塞でやられてしまうので、早く病院に通いたいという。
詳しく書けないが、通常はその場で住居まで連れて行くということは滅多にない。しかしこの日は実習でもあり、かつ早く病院にかかりたいというAさんの希望もあり、即日住居に連れて行くことにした。
公園のホームレスにありがちなように、Aさんはほとんど持ち物はなかった。当然身分証明書もなければ、携帯も無い。かろうじてゆうちょ銀行の口座はあるというのだが、それも前の施設に預けたままだという。よくよく聞けば年金も偶数月に数万程度振り込まれるというではないか。
そのまま住居に入ってもらい、翌日保護の申請同行をする。同時に前にいた施設に架電し、「通帳その他を返して欲しい」と連絡する。施設側も結果的に役所に郵送してくれると約束してくれた。
申請して約2週間後、他の書類と共に通帳が届いた。
「念のためATMに行って、最新の入出金の記帳をしてもらえませんか?」
役所は保護申請者の残高を把握する必要があるのだ。丁度2/15の年金振り込み日でもあったので、いくらか生活費を下ろす為、郵便局の窓口で出金伝票と通帳を出した。住所を記載する箇所があったが、そこは空欄のまま。というのも、現在の住所では意味がないからである。
小生「住居を変えたばかりなので、空欄にしています」
局員「そうですか、では登録した時の住所をお願いします。」
Aさんは一つ前に住んでいた施設の住居を書いた。
局員「いや、これは違いますね…」
住所を転々として何度も生活保護を繰り返すホームレスは、こういう問題に直面する。通帳と一緒に送られて来た書類を漁って、過去の住所記録を探し出す。
小生「これですかね?」
局員「あ、そうですね。」
局員によると、住所変更されてない場合、出金できないことがあるようだ。まず住所変更をしてくれ、と頼まれたが、現在保護申請中で住所を証明するものが何もない旨伝えた。だが問題は住所だけではなかった。
局員「あの、印鑑が違うのですが、別の印鑑はお持ちではないですか?」
持っていたもう一つの印鑑を出してみる。これでアウトならどうにもならないが…
局員「あ、合ってますね」
ホームレスの場合、路上生活で荷物を取られたり無くしたりすることが多い。保護受給中でなければ受給証もないので、何の身分証明書も無い。これで印鑑がなかったり、登録した住所を正確に伝えられなかったりすれば、どうにもならない。そのような条件下では、通帳だけ持ってきた人間が本人であるかどうかなど、客観的にも判別しようがない。
何とかお金をおろせた、と思ったらまたまた次の問題が判明。なんと12月15日支給分年金約10万円が、そのまま口座に残っているではないか。1月末の保護申請時点で、10万円を口座に有していたことになる。所持金が多いと、保護は受けられなくなるが、これは微妙なケース。記帳した通帳を役所の担当者に持って行くと…
担当者「おそらく初回支給は、この分を控除しての支給になるかと思います。」
これも何とかなりそうだ。
しかし最後に気になるのは、約4カ月分20万弱の残高を本人が下ろして使ってしまわないか、という問題である。
前の施設では通帳が管理されていたというが、最初からそういう話をすると信頼関係形成にも問題が生じかねない。多少躊躇はしたが、通帳の保管を本人に切り出してみた。
小生「前の施設でも通帳預かってたみたいですし、今回も無くしちゃうと大変ですから、預からせてもらってもいいですか?」
A氏「いいよ」
全く抵抗する様子もなくあっけなかった。
小生「上野公園で路上生活していた時にも、通帳には10万円あったってことになりますが、通帳を取り戻して引き出そうとか思わなかったんですか?」
A氏「う~ん、その時は考えなかった。」
60代後半だが、まだボケているわけではない。ひょっとしたら正直者のFさん同様、大当たりの店子かも知れない。奇しくもその正直者Fさんも、同じ住居に住んでいるのだが(Fさんはリンク先下の方の正直な古株爺さん)。
ほぼ単なる日記でした。
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