あれふこま5
「あれふこま」=アレフ経理部本体の隣室で暴力事件に遭遇したSさんだが、Yさんに「殴られた」という彼にも暴力的要素含めて問題があるように思われた。いずれにせよ、このまま二人を同じ部屋に居住させ続けることは困難だろう。そう考えていたところに、初回支給日に役所でのトラブルが起きた。
Sさんが突然切れて「出て行く」と言い出した際、小生も「出て行くなら勝手にしろよ」という思いを抑えきれなかった。どちらかと言えば、それまで一年間借金の返済も含めてキチンとしてきたYさんが残る方が、問題が少ないようにも思えた。それが「60:40」で「出て行ってくれたら話は早い」と考えた理由である。
これはSさん個人の事を思えば、恥ずべきことだったかも知れない。後で述べるが、結果的にもYさんに与する判断は正しくなかった。とは言え、この時点で部屋の空きがなく、2DKを二人でシェアするのも難しく、Sさん自体がどの程度問題ある人なのかも分からず、問題ある場合どの程度こちらの諫言にも従ってくれるか分からない、その条件下では厳しい判断である。
ただ前回・前々回に書いたようなトラブルは、本人の内面を明らかにし、信頼関係を多少なりとも深める上では、不可欠な過程でもある。信頼関係は、単に世間一般の商取引にあるような表面的やりとりだけでは深まらない。内面に蓄積されたものを吐き出すような過程が、多少なりとも必要になる。そういう意味では、吉とでるか凶とでるかは不明だが、ある意味歓迎すべき事なのかもしれない。
さて、Sさん初回支給日から数日後、今度はYさんに呼ばれて住居を訪れることになった。あの日Sさんは、役所から住居に戻らず、そのまま失踪する可能性もあった。しかし住居を訪ねてみると、Sさんが小生を見るや否や話しかけてきた。
S氏「こないだはどうもすいませんでした。」
小生「あ、いえいえ、気にしないでも大丈夫ですよ。」
あの日の興奮は、単に一時的なものだったのか。しばらくこの部屋で落ち着くように思われた。一方のYさんであるが、何の話かと思えば、企業年金の話である。
Y氏「野田さん、企業年金がまとめて160万位入ることになったんだけど、役所に黙っているわけには行かないの?」
Yさんには、手続きをせず受け取っていなかった企業年金が貯まっていたようだ。それが手続き開始で初回まとめてもらえるらしい。
小生「黙ってても口座に振り込まれますから、証拠が残りますよね?」
Y氏「そうだけど、なんかいい方法ない?」
小生「役所の方でも必ず照会をかけますから、隠していても後でほぼ確実にばれますし、ばれたら返還金の請求が来ますよ。」
保護は足りない収入を補う制度である。年金収入があった場合は、その分差し引かれる。彼の場合は、過去にさかのぼっての返還請求で、160万はほぼまるまる返せということになろう。
Y氏「なんとかならないの?だって折角もらっても役所に返すんなら意味ないじゃん。」
彼にとっては、保護は貰って当たり前、その上に企業年金の臨時収入、という感覚のようだ。こういう人は少なくない。
小生「そうは言っても、役所の人はマニュアル通りに計算して返還請求するだけだから、どうしようもないと思いますよ。」
Y氏「全部返せなんて、おかしいよ。そんなの納得できないよ。もし全部返せっていう話になるんなら、俺出てくよ。」
小生「まあ…、それは役所と話してみて下さい…。」
元々都内に住みたい、と言っていたYさんである。多分160万が手にはいったら、どこか都内で物件を借りることになるだろう。こんな感じで一転Yさんの方が物件から出て行きそうな流れになった。
(つづく)
それにしてもお父さん、なかなかの人物ですね。
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