修行お値段４

元出家者で小生の部下だったＧは、団体を出た後、アパートを家賃滞納で追われ、支援を求めてきた。最初の物件で同居者を殴って逮捕されたので、川口市の物件に移った。そこで新たに元ホームレスのＴさんと同居することになった。そのＴさんの家賃と貸金回収をＧに手伝ってもらうことになった。

当初数カ月は、Ｇは役所に同行してＴさんの家賃と分割払いの借金返済分を回収してくれた。お金を回収するたび、Ｇは「家賃貰いましたが、野田さんいつ来ますか？」と電話を入れてくれていた。それなりにしっかりやってくれているのだろう、と小生も彼を信頼していた。

８月の支給日も、１１時過ぎに連絡が来た。

「家賃貰いましたけど、いつ取りに来ますか？」

小生は、彼が引き継がなかった送迎を終えてから行く必要があったので、

「２時半には行けると思う」

と答えた。

２時半に物件に行ったところ、Ｇは居なかった。８月頭の蒸し暑い時期で部屋の扇風機は回りっぱなしであった。どこか買い物でも行ったのかと思ったが、夕方になっても帰ってこなかった。部屋の電話もメールも通じない。翌日になっても翌々日になっても連絡は付かず、物件にも帰っていなかった。

ここで小生が考えたのは、「何か事件か事故があったのではないか？」ということだった。つまり何かの事件で逮捕されたか、あるいは持病の糖尿病等で救急搬送されたか、である。

しかしどちらのケースでも、市役所には連絡が来るはずだった。逮捕なら、弁護士もしくは警察から、救急搬送で入院なら病院から、それぞれ連絡が来るのが通例である。だが役所にも何の連絡もなく、一か月以上が過ぎた。

まだ結論を出すのは、ひょっとしたら早いのかもしれないが、単に小生が彼を買い被っていただけに過ぎなかったのではないか。出家生活で少なくとも２回、「給料袋ごと落としました」とやったＧである。残念ながら他のホームレス同様、小生に支払うべき家賃を持ち逃げしただけの可能性が濃厚である。

彼が所持していた金額は、Ｇの家賃とＴさんの家賃及び借金返済分で１０万ちょい。もし持ち逃げしたとするならば、教団内で上司部下だった関係も、その後も仏教信仰を続けていたことも、（自分で言うのもなんではあるが）小生から受けて感じたであろう恩義も、なんら縛りにならなかったということである。

一応Ｇは、教団内ではやたら長いホーリーネームをもらったサマナ長であった。タイトルの「修行のお値段」は、サマナ長で１０万円以下ということになる。

そういえば、団体で正師であった人間も、５０万円持ち逃げしてくれたことがある。それ程小生と個別の関係が深いわけではなかったが、彼が一生懸命ネット上で展開していた「釈尊は、何を教え、そして何を実践していたのか」というご高説を、わずか５０万円でかなぐり捨てたことになる。

修行のお値段

サマナ長　１０万円
正師　　　５０万円

正悟師ならいくらになるだろうか？５倍で２５０万、１０倍で５００万だが、その程度の金額なら小生も夜逃げはしないだろう。しかし小生でも５０００兆円位目の前に出されれば、似たような事をするかもしれない。５０００兆円というと、全世界のＧＤＰ半分超になるので、ロックフェラー・ロスチャイルド含めた銀行家全てを亡きものにして奪い取るとかいう話になるが。

「５０００兆円目の前に出されても、そんなことはしない」

と言い切れるあなたは、偽善者か何らかの観念に凝り固まることで心の本質をよく知らない人だろう。そのようなことをする人間がいる以上、そしてその事象を認識してしまった以上、そのような可能性があるということである。

Ｇは、不真面目でも曲りなりに２０年近く教団に在籍し、辞めた後も信仰を保っているつもりだった。それがたった１０万円で……、というのは残念でならない。

Ｇの部屋の押し入れには、彼にとってのご尊像（麻原の写真）が残されていた。


「どっかで水死体で発見されましたとか、事件で山奥に埋められているのが発見されましたとか、連絡が来ないだろうか。そっちの方が持ち逃げより遥かにマシだよ…」

そういう想いを未だ捨てきれないでいる（原稿執筆時8/30時点で）。